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『マイスウィートスウィートエンジェル!』第16話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説


 シンちゃんが遠くにいっちゃう。それはそれでいい。いつだって遠くから眺めていたいと思っていたのはアタシだ。だけど、別の人みたいになってしまったら、悲しい。この気持ちがアタシのエゴだということも、悲しい。
 いや、変わってなんかないはず。だってシンちゃんは相変わらず、ピンクの可愛いタバコを買っていった! きっと社会とかいうやつのせいで、仕方なくあんな格好させられて、仕方なく言いなりになっているんだ。シンちゃん、待ってて。きっとシンちゃんが気にいる歌詞を書いて、シンちゃんをトキメキでいっぱいにしてみせる。

 ピンクのふわふわの中で、羽の生えた女の子が泣いている。よく見ると女の子じゃない、のか、いやどっちだっていいんだけど、ピンクのふわふわの中で白いレースの付いたパジャマを着ている幼い子が泣いている。その子の周りをスーツを着た馬が、六頭ばかりぐるぐるぐるぐるまわって、難しい言葉を浴びせている。突然、一頭が立ち止まって、一歩近づく。その子に赤い赤いバラの花を差し伸べる。甘くて苦い言葉をかけられて、その子はふと泣き止んだ。
「ダメよ!」
アタシの声はどうしたって届かない。ピンクのふわふわが邪魔をする。その子はついに馬へ乗ったかと思うと、みるみるうちに大人になって、羽は燃えて、代わりにツノが生えて、スーツを着た王子様みたく変身した。ピンクのふわふわが溶けていく。飛べたはずの空が崩れていく。ふわふわが溶けて現れたビルの群れの中で、王子様はアタシに気がつくと、聞きたくない言葉を言おうとしていた。
 馬鹿野郎、という自分の叫び声で目が覚める。目の前には書きかけの歌詞がある。
「マイ、スウィートスウィートエンジェル」
飛んで、飛んで、どこまでも飛んで逃げてくれたら、アタシは安心できたのだろうか。あの子は地面を踏み締めて駆けていってしまった。どこへ? 空は広くて、どこまでいっても空だ。大地はごちゃごちゃしていて、何が何だかわからない。不安、不安、不安。あの子が迷子になってしまわないように、理不尽な暴力にいじめられることがないように、祈る。違う、アタシのために、祈る。あの子がアタシの知らないどこか遠くで、幸せになることがないように。アタシの祈りが届いたことで、幸せになるように。アタシは化け物だ。でも、それでいい。

【差引残高 134,267】

 

◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
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