『マイスウィートスウィートエンジェル!』第15話



 作詞がうまく行かなくて、シンちゃんに会わない日が増えた。なんとなく罪悪感があった。お金ももうなくなってきていて、当初決めていた目標が目の前に迫ってきていた。
 だけど、いけない。こんなにボサっと死んでたまるか、と思う。シンちゃんからトキメキを貰うだけたっぷり貰っておいて、このザマはなんだ。アタシはトキメキを共有できる相手に出会いたかったはずなんだ。アタシだって、シンちゃんにトキメキをあげたい。シンちゃんに喜んで欲しいからとかではなくて、これはアタシのエゴだ。トキメキを無理矢理押しつけて、アタシが気持ち良く終わりたい。アタシは、シンちゃんを利用している。
 とはいえお金がこうもないと、生きていくことができない。アタシは取り急ぎ、適当にコンビニでバイトを始めた。思った以上に仕事が覚えられなくて、日々、歌詞を書くどころではなく、嵐のように過ぎていった。
 死ぬかもしれない! 普通に死ぬかもしれない。こんなにギリギリでも胸張って生きていけるのなんてKAT-TUNくらいだろ、と思う。KAT-TUNは「ここ」とかいう場所を飛び出してAh Ahするんだから、立派だ。立派にかっこいい。ギリギリすぎて死ぬのも躊躇って適当にバイトして忙しい〜とか言っている場合じゃない。リアルって何? 手に入れたい、トキメキ。
 書け!!!
 今日は寝ずに歌詞を書くぞ、と人知れず息巻いてみる。やっぱり、シンちゃんの曲も声も大好き。だからこそ、ありきたりな言葉しか浮かばない自分が嫌になる。

「……らっしゃっせー……」
 結局、うまく行かずにまた眠ってしまった。こんな感じでお金も尽きて終わっちゃうんだろうか。あー、なんつーか、何もかも中途半端なアタシっぽい。
「唐揚げチャン揚げたてでーす。いかがですかー」
適当にお客さんを捌いていく。
「159番、二箱お願いします」
「はーい、こちらで……」
シンちゃんだ!
「シンちゃん!?」
「お久しぶりです」
目の前にはスーツ姿で、かなり髪の毛も短くなったシンちゃんがいた。変わっていたけれど、照れくさそうに笑う優しい笑顔は相変わらずだった。
「どうしたの、お仕事終わりみたいな感じじゃん」
「ソラさんこそ、バイト始めたんですか?」
そういえば最近、かなり連絡をとっていなかったので互いの状況もよく知らなかった。
「アタシはまあ……まだ死ねないってゆーか、仕方なしだよ」
「おれも、知り合いの伝手で仕方なし、ってかんじです」
そっかあ、忙しいね、ちゃんと食べてる? なんてどうでもいい世間話がすごく長く感じる。見慣れないシンちゃんの姿が、なんだか寂しい。シンちゃんの部屋も、変わってしまったのだろうか。シンちゃんのトキメキも、変わってしまったのだろうか。いろんな思いをぐるぐる回しながら、タバコを手渡す。
「ソラさんも、お疲れ様です。じゃあ、また!」
またってなんだよ、いつだよ馬鹿野郎。と、シンちゃんを通してアタシに思う。アタシがシンちゃんの曲の歌詞を書き切らない限り、シンちゃんにはもう近づけないんだと、なんとなく感じていた。

【差引残高 134,267】

 

◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
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