プレビューモード

『マイスウィートスウィートエンジェル!』第12話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説


 シンちゃんはアタシよりもふたつ歳下で、弟ができたみたいで本当に可愛かった。
 シンちゃんとはカラオケに行ったり、ウインドウショッピングをしたり、喫茶店に行ったり、可愛いものを見てはしゃいだり、弟というよりは本当は妹みたいで、とにかく可愛くって、なんでも買ってあげたくなった。シンちゃんはその度に「ダメですよ!」って手をブンブン振って拒否するんだけど、それがまた可愛くっていけない! アタシはいつの間にか、というか最初からシンちゃんにメロメロだったのだ。
 シンちゃんは左耳の耳たぶにピアスの目印みたいなホクロがある。ピアスあけないの、と聞くと、なんだか怖くって、と照れながら笑う。ちょっといじめてやりたい気持ちになる。いつか寝ている間にこっそりあけてやったら、怒られるかな。怒ってるところも、見てみたい。シンちゃんが怒ってるところと、泣いてるところは、まだ見たことがない。

「ねぇ、これからアタシんち、来ない?」
ファミレスでパフェをつつきながら、何気なく言ってみたら、シンちゃんは嬉しそうに「いいんですか?」と目を輝かせた。
「お菓子買ってさ、一緒になんか映画でも見ながらお喋りしよーよ」
 クリスマスにはまだ少し早いけれど、街はすでにクリスマスモードで、赤、緑、金色、と彩られている。シンちゃんがいた所とは別のコンビニでお菓子とジュースと、お揃いのタバコを買ってうちへ向かう。シンちゃんはお酒を飲まない。アタシはそれが少し寂しかったけれど、シンちゃんがどれにしようかなーと嬉しそうにジュースを選ぶ姿が可愛くて、たまにはジュースも悪くないな、と思う。シンちゃんの黒目にイルミネーションの色がチカチカうつって、天使みたいに綺麗。もっと歩いていたいな、とも思うけど、流石に寒くってうちへ向かう足は自然と早くなる。

「うー寒。汚いけど、そこらへん適当に荷物置いてくつろいでね、手洗うところはこっち」
「わあー……ソラさんち! 嬉しい、おじゃまします」
シンちゃんは綺麗な黒い靴を丁寧に靴を脱ぎ揃えて、部屋の隅に荷物を下ろした。アタシの汚いスニーカーが恥ずかしそうにしているように見えた。流石に洗ってやろう、という気持ちになる。
 いつもの部屋なのに、シンちゃんがちょこんと座っているだけでキラキラして見える。やっと見つけた、アタシだけのトキメキの塊。流行りの適当な映画を上目遣いで眺めながら、細い指でお菓子を口へ運ぶシンちゃん。なんてことはない映画やお菓子なのに、すごく魅力的に見えてくるもんだから、シンちゃんは本当にすごい。

 映画が終わると、緊張も少しずつ解けてきたのか「ソラさんと遊んでると本当に楽しいです」と急にシンちゃんが口を開いた。なんだか照れ臭くて、へへへ、そーかなぁと濁してしまったけれど、本当に楽しいのはアタシの方だ。なんでもない、退屈でたまらない灰色の人生に突然飛び込んできたアタシだけの天使。シンちゃんと出会ってから、毎日が本当にキラキラしていた。幸せすぎて、怖くなって、急に全てを終わらせたくなってしまうくらい。だからアタシは、アタシが決めたアタシへのルールに少し感謝する。お金がなくなったら、そっと居なくなろう。今のこのキラキラな世界に、少しだって汚れを入れたくない。もうとっくに働く気なんか失せている。甘えだ、って世間様に怒られるのも分かっている。アタシだってそう思う。だったら消えてやる。世間様とかいうよくわからんマボロシは、怒ってくるばかりで対話なんてしてくれない。シンちゃん。シンちゃんは違う。シンちゃんにはシンちゃんという呼び名があって、そこに存在するだけでアタシをときめかせてくれる。アタシは世間様の怒りの中じゃなく、シンちゃんのくれるキラキラに包まれたまま終わりたいと心から思っていた。
「ね、一本吸おーよ」
ベランダにシンちゃんと並んでおそろいのタバコに火をつける。こういうのでいいんだよ。こういうのがいいんだよ。シンちゃんの左耳のホクロが、今のアタシの一番星。夜空に青くなった煙がどこまでも遠く滲んでいった。

【差引残高 320,775】

 

 

◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
ぱやちの関連リンク集 https://potofu.me/241638

 

 

◀ 第11話

第13話 ▶