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『マイスウィートスウィートエンジェル!』第11話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説


 火照った顔の店員さんを連れて、ファミレスへ入った。目の前でちょこんとかしこまって、両手をグーにしてきゅっと座っている彼が可愛くて仕方がない。
「で、何してたの。あんなところでさ」
ピーチヨーグルトジュースをちゅーっと吸いながらアタシは聞いた。店員さんは数秒モジモジしていたけれど、話し始めるのに時間がかかるのは知っていたから、大人しく待つ。
「あの、お姉さんおれのこと……その、覚えてます?」
「我ながらキモいけど、ハッキリ覚えてんよ。よく行くコンビニだしさぁ、話しかけてくれたじゃん、あの時うまく話せなくてアタシ後悔して……」
「や、そうじゃなくて……そう、それもそうなんですけど……あの……」
そうじゃなくて? まどろっこしいなと思いつつも、ジュースの氷をコシャコシャ混ぜながら、待つ。
「お姉さんも、あそこに立ってましたよね、それでおれ……その真似っていうか、なんというか、その時のお姉さんがすごく綺麗で……って、何言っちゃってんすかね」
馬鹿な! まさかあの、平手打ちされていた男の子だというのか!? いやいやそんなまさか、と思いつつも、「パンツ、見た?」と聞くと、泳ぐ泳ぐわ目が泳ぐ、こいつぁ見たなと確信し、まさかの出会いに心臓がドキドキうるさくなった。
「そんなことある!? ちょーヤバい、てかよくアタシだって分かったね」
足をバタつかせて緊張を誤魔化すアタシに、「天使みたいだ、って思ったんです」と、目を見て一言静かに言うもんだから、その後すぐに俯いて赤くなるもんだから、こっちまで恥ずかしくなって、アタシもグッと唾を飲んで黙ってしまった。
「その後、髪がピンクになったお姉さんがコンビニへ来て……この人だ、って思ったんです。あの日、あの場所に立っていたお姉さん、あの時の空の色に髪が染まっていて、とても綺麗で。その時の空を閉じ込めたみたいな髪の色になってて。でもおれ、うまく話せなくて……失礼なこと言っちゃってるかも。ごめんなさい……」
「いやいやいや!? なんかロマンチック、こんな素敵なこと言われたの生まれて初めてだし、びっくりしちゃって、こっちこそ黙っちゃってごめんね!?」
慌てて口を開いたら、口の端が少し切れた。
「その、あの時お姉さん、死んじゃうんじゃないかって思って、警察呼ぼうとしたりしてすみませんでした」
そう言われて、あの日の記憶が少しずつ戻ってくる。そういえば店員さんは、デートしていたような気がする。なんだか虚しくなってきて、さっきまでのドキドキがしおしおと萎んでいった。
「いーのいーの。てかあの子とはうまくやってんの? めっちゃ熱烈にチューしてたじゃん」
少し意地悪く聞いてみると、店員さんは慌てた顔をしてすぐに否定した。
「や、おれ、付き合ってないです! あの子は……その……ずっと好きって言われてて……なんか断れなくて……はは、ダメですよね、おれってなんでこうなんだろ……や、でも、お姉さんを見て……っていうか、あの日からもうキッパリ、うーん……キッパリも違うか、全部連絡拒否してて。もう何もないですよ。」
そう言われて、また少しドキッとしてしまうアタシは単純すぎる。こんなにか細い男の子に、短時間でジェットコースターのように感情を掻き回されて、でも、不思議と悪い気はしない。
「あはは、そうだったんだ。あーあ、こんなことならもっとおしゃれして来るんだった。髪ももう、ピンクじゃなくなってきちゃってるし。ぜーんぶぐちゃぐちゃ。恥ずかしいや」
彼は「そんなこと……」とボソッと呟いて、
「お姉さんはおれの天使様だって、思ったんです。だから、嬉しい。すごく嬉しい。こうやってまた話せるなんて……夢みたいで」
天使だ!!!!! そう思った。こいつ、この男、大天使だ。相互天使。愛。トキメキが爆発して目の前に大量のラメが降った。
「好き!」
間違えた!
「アタシ、落合ソラ。そういえば名乗ってなかったよね。店員さんの名前は?」
「おれは大鳥羽、大鳥羽シンゴです。それから、もうコンビニ店員は辞めちゃいました。今は次のバイト探し中で。」
ミラクル!
「アタシも! ねえ次の仕事決まるまでさ、いっぱい遊ぼうよ!アタシたち、きっといいお友達になれる気がする。シンちゃんて呼んでいい?」
そう言って拳を突き出すと、シンちゃんは骨張った真っ白な拳をゆっくりコツンと当てながら、
「よろしく、ソラさん」
と、そばかすのある可愛いほっぺたを少し上げながら、ふんわり笑った。

【差引残高 802,235】

 

 

◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
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