『マイスウィートスウィートエンジェル!』第9話



 タッくんが浮気をした! 正確に言うと、しまくっていた! 

 マッチングアプリで出会ったような男は結局、マッチングアプリで浮気をしまくってしまうのだ。タッくんは隠すのが上手かったけれど、昼寝の回数が多すぎた。ガーガー寝ている間に無防備な携帯はピコンピコンと知らない女の名前を浮かばせまくっていた。しばらくは知らないふりをしてやろうと思っていたけれど、普段通り変わらず優しいタッくんが逆にキモく思えてきて、別れた。あっけなかった。

 タッくんと付き合っていたのは一年経たないくらいだったけれど、その間も生活費はバンバンかかり、アタシの貯金は少しずつ痩せていった。代わりに懐疑心と人恋しさはムキムキに成長しまくって人生歴代チャンピオン級。こんなことならずっと一人でいればよかったーなんて思っちゃう。タッくんがはじめての恋人だったわけじゃないけど、学生時代の恋愛なんて可愛いもんで、一晩寝たらまた次の好きな人が簡単にできちゃったり、勉強の方が忙しかったりであっという間に忘れられた。大人になってからは、やっぱりそうはいかなくて。忘れたくても、気を紛らわせたくても、他に夢中になれることなんてそうそう見つからない。出会いもない。何かしようにも、優しかったタッくんの笑顔だとか、貰った他愛のないプレゼントだとか、今となっては安っぽい「好き」とか……。色んなことがぽわぽわ浮かんでは消え、浮かんでは消え、何にも集中できやしない。

 おまけに働いていない身だから、あーとかうーとか悩んでももうどうしようもないことに悩んで頭をぐちゃぐちゃ掻き回しているうちに同じような昨日を生んでまたその昨日になりゆく今日が始まってしまう。なんて、勝手に始まってるみたいな言い方だけど、そうしちゃっている犯人がアタシだってことくらい、もう分かっている。何かしなくちゃ、とは思う。思うけど、もう何を始めるのも面倒で、(何かを始める時に使うエネルギーは、それはもうとんでもなく莫大なものなのだ)終わっちゃいたい、とぼんやり思う。こんなアタシにトキメキなんて、もうありっこないんだって思っちゃう。髪だって、もうとっくに色落ちしてわけわかんないカラメルどっさりプリンみたいになってるし。綺麗にしたいけど、綺麗にしたから何? みたいな気持ちになってしまう。どうせ、どうせ、どうせって言葉が怒涛のようにバシャバシャ打ち寄せてきてどんどんアタシは泥沼の驚し泥人形になる。どろんぱ! って消えちゃえたら楽なのに。さよなら、本日のアタシ。お風呂はもう明日でいーや。どのみち明日も昨日になる。んで、ドロップアウト。

【差引残高 803,515】

 

◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
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3件のコメント

  • よきよき

    yz
  • すき

    math
  • 言葉のリズムが最高です!

    あき

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