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『マイスウィートスウィートエンジェル!』第8話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説


 スワイプ、スワイプ! ここ数日、アタシはひたすらマッチングアプリで人間を選別しまくる妖怪になっていた。こいつもダメ、こいつもダメ、こいつなんてもっとダメ! なんてやってるとアタシって何様だ? ってなってくるけど、仕方ない。なんとかしてトキメキを共有できる、そしてあわよくばアタシをときめかせてくれる相手を手っ取り早く見つけたい。なんとなくシャッフルで流していた音楽が流行りの恋愛ソングに切り替わってイライラする。これに共感できるようになったら、一人前のオンナなのかしらね。流行ってるってことは、共感してる女の子がたくさんいるってことなんだろうし。わかんないなあ、アタシもう枯れてんのかなあ、心がしおしおな感じがする。イイイ! 腹立って間違えてイケメンをスワイプして消し去ってしまった。

 あーんもう超ツイてないしクソがよ〜! って何この人、住んでる場所激近!

 もう既に疲れて誰でもいいやな感じになっていたアタシは、かなり近くに住んでいるらしいタクヤ☆という男にとりあえず会ってみることにした。今からゴハンどっすか? とのこと。「もちオッケっすよ」と返事をして待ち合わせる。お店はタクヤ☆が予約してくれているらしいので、地図を見てお店まで行く。アプリの写真をぼんやりと覚えていたので、タクヤ☆らしき男にはすぐに気づくことができた。タクヤ☆は白いTシャツに細身のジーンズで、短い茶髪がよく似合っていた。第一印象、かなり良し。
「こんばんはー、タクヤほしさんですか?」
「はは、何それ。タクヤでいいよ。シドさん?」
そう言われてアタシはアプリ専用に付けた自分の名前が急にめちゃくちゃ恥ずかしくなった。めっちゃビジュアル系みたいな。普通に本名で登録するべきだったかも。よくこれでマッチングできたよな、と少し自分に感心する。
「あーはい、でも本名ソラなんで、ソラでもいいです」
「じゃあソラちゃん。よろしくー」
タクヤ☆が人の良さそうな笑顔で言うもんだから、音階に因んで付けたシドというテキトーな名前が更に恥ずかしくなる。アタシの警戒心はもはやゼロだ。美味しくゴハンが食べられそうで、嬉しい。
「誰かとゴハン食べるなんて、久しぶり」
「えー、ソラちゃん可愛いし、友達多そうなのに」
さらっと可愛いなんて言ってくるもんだから、少し照れてしまう。
「可愛いことと友達が多いことは比例しないっしょ」
「あはは、否定はしないところがいいね!」
タクヤ☆は褒め上手だなと思った。知らない人に会うからと、いつもより念入りにしてきたお化粧が喜んでいる気がする。

 タクヤ☆が手際良く注文してくれたおつまみをぱくぱく食べながら、ビールを飲む。一人で飲むお酒はなんだか虚しい味がするけれど、誰かと飲むとやっぱり美味しい。適当に世間話をしているだけでも、気持ちが安らいでお酒がすすむ。タクヤ☆は同い年で、介護職に就いているらしい。
「俺もさ、あんまり友達多い方じゃないから。ソラちゃんみたいに可愛い友達ができると嬉しいよ」
「えー、てかアタシらいつから友達になったの」
急に友達扱いされるとなんだか少し腹が立つ。
「え、ダメかなあ。じゃあ改めて、俺と友達になってください!」
タクヤ☆もお酒がまわってきているのか、ぎゅっと目を瞑って一世一代の告白みたいに片手を差し出して来るもんだから、まあいっかーなんて思ってはいはいヨロシク、と手を握ってあげた。タクヤ☆はよっしゃー! なんて喜んでいて、少し可愛い。
「じゃあさ、ライン交換しよ? 俺のQRコード、これね」
アタシはタクヤ☆と連絡先を交換して、タッくんと呼ぶことになり、そして更に付き合って、別れることになる。

【差引残高 2,419,767】

 

◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
ぱやちの関連リンク集 https://potofu.me/241638

 

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