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『マイスウィートスウィートエンジェル!』最終話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説


 ソラさんがこの世界からいなくなってしまって、二度目の春がきた。おれの髪は随分と伸びて、貯金は反対に随分と減った。だけどソラさんが、生きるためにお金よりも大切なものを教えてくれたから。ソラさんはやっぱりおれの天使だったんだと思う。光、そのもののようにあらわれて、強く強く光って消えていった。宵の薄桃色になった空を見ていると、いつでもソラさんがそこに居てくれるような気になる。ソラさんのくれたトキメキで、はじめておれは人間になれた。天使なんかじゃない。おれの愛しい愛しい天使さま。おれを人間にしてくれてありがとう。たまに死にたくなったって、おれには特別な歌がある。永遠になった歌がある。

 ピンクのTシャツを着て、サクランボのピアスを付けてライブハウスへ向かう。ギターケースの重みが心地いい。ショーウィンドウに映った自分を見て、前髪を直す。少しでも自分を好きになるために。
「お兄ちゃん、なんで男の子なのにピンク色なの」
年長さんくらいの子どもがあどけなく聞く。
「それはね、とびきりゴキゲンだからだよ」
なんとなく、ソラさんならそういう気がした。おれは、「ピンクはおれのお守りなんだよ」と答えて、微笑んだ。
「おれはー、ブルーが好き!」
そう答えてこどもは駆けていった。そう、それでいい。それぞれが、それぞれのお守りにどうか愛されますように。

 ライブハウスは独特の熱気に包まれていて、何度来てもぎゅんと胸が押されるような気持ちになる。負けない。嫌いじゃないドキドキ。走り出しそうになる。ぐっと足を踏ん張って、おれは歌う。ソラさんのところまでどうか、届いて。何度でも歌うよ。
「マイ、スウィートスウィート、エンジェル」


どこから来たの どこへ行くの
翼にならない手を広げて
目一杯ためこんだ涙が
零れないように空を見るの

悔しさとか 悲しさとか
抱えて重たい君の背中
黒い影に押されて逆さま
真っ赤な瞳で空を見るの

思い出してよ ほら 君のことを
思い出してよ ほら 君の全て
赤いハートが 今 夕暮れ時
雲を掠めて ほら ピンクになる

マイスウィートスウィートエンジェル
低く飛んで 手を繋いで 二人でいよう
マイスウィートスウィートエンジェル
固い扉 壊さないで 君のままで

泣きたい時 笑う癖は
治らないままの君でいてね
目一杯ためこんだ涙を
照らせば心に虹もかかる

話してよ ほら 君のことを
話してよ ほら 君の全て
赤いハートよ 今 夕暮れ時
僕に触れてよ ねえ ピンクになる

マイスウィートスウィートエンジェル
高く飛んで 怖くないよ 二人でいよう
マイスウィートスウィートエンジェル
次の扉 君と僕で 鍵を開けよう

マイスウィートスウィートエンジェル
飛べないなら それもいいね 二人でいよう
マイスウィートスウィートエンジェル
天使なんかじゃないって知ってる それでも、あぁ
君がいいよ 君がいいよ 翼になる 僕が君の

「ありがとう」


【差引残高 -】

 

◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
ぱやちの関連リンク集 https://potofu.me/241638

 

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