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『マイスウィートスウィートエンジェル!』第6話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説


「……ですよね、俺も同じの吸ってる奴に会ったことないです。やっぱ、箱が可愛すぎるからかなあー」
予想外の表情に驚いて黙ってしまったアタシを助けるように、店員さんはさくさくと袋へ商品を入れながら優しい声で言った。

 確かにアタシが、そして彼が吸っているタバコはパッケージがピンク色で、味もスッキリとした果物を思わせるものなので、どこか女性的な印象がある。だけど、なんでだかは分からないけれど、彼にはとてもこのタバコが似合うって、アタシは直感で思った。だからこそ、さっきの寂しそうな微笑みが気になって、ズキズキする。何か別の話題を、と考えていると、後ろにお客さんが並んでしまって、アタシは左へ左へと流されていく。

 このままじゃダメだ、なんか後悔する気がする。だけど、だけどどうしたってアタシはただの客の一人にすぎないし、彼だってただの店員で、不意に見せた表情たった一つに執着されるのは迷惑かもしれない。頭の中がぐるぐるして、口ではあーとかうーとかいう唸り声に近いものしか出ないので、結局諦めてアタシは店を出てしまった。バカーーー! 結局何にもわからなかったし、何にも伝えられなかった。伝えられなかった? 伝えたいことなんて、あったっけ。それももうわかんない。だけどなんだかモヤモヤする。モヤモヤは、トキメキに覆い被さって邪魔をする悪いものだ。アタシはモヤモヤ集めが得意のトキメキ欲しがりさんなので、いつもスッとしない気持ちを抱えてばかりいる。

 コンビニの喫煙所で買ったばかりのタバコへ火をつける。頭の中のモヤモヤが煙になってアタシにまとわりつくみたいだ。店外から彼を盗み見ると、やっぱり眠そうな顔をして立っている。可愛いな、と思ってしまう自分にビックリしちゃう。それでもこれは単なるトキメキではなくて、やっぱりモヤモヤは煙と一緒にもくもくアタシの周りに漂っている。なんなんだよ〜! 自分の気持ちがはっきりしない時、ぼうっとした不安が心の中でどぷどぷ動いているような感じがして、落ち着かなくなる。

 ザザ、とタバコの火を擦り消して、歩き出す。今日はなんだか左手のレジ袋が重く感じる。ブランコを漕ぎすぎたせいかもしれない。

【差引残高 2,424,567】



◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
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