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『マイスウィートスウィートエンジェル!』第3話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説



 お箸大丈夫ですってか、パスタなんだからフォークじゃん。と思いながら、適当に手を洗ってさっき買ったパスタのアボカドとサーモンを避けてからレンジにぶち込んで、食器置き場を漁る。買った時の粘着テープがまだ微妙に付いたまんまのフォークには全く愛着がなく、今すぐ捨てちゃいたいくらい。使えるし、ま、いっかーなんて妥協してるから、またちっちゃなドンヨリが溜まっていく。可愛い食器、ほしいな。あー家のもの全部白とピンクで統一しちゃいたい、でもこのボロ部屋だと、ちょっとな〜。なんか、住んでる部屋が気に入らないと色んなことを整えるのが面倒になる。ボロ屋敷にいくらメッキを塗りたくったところでめくってみたら結局ボロ屋敷なのだ。なんつーか、虚しいんだよね。側から見ればかわいーとか思われるかもしんないけど、アタシだけはその中身を既に知っちゃってるわけで、忘れることなんてできないから。かわいー、の後に、「いやぁでも元はボロ屋敷ですんでねぇ」って自分の情けない声が聞こえちゃう。部屋に限った話ではなくて、なんか人生の全てがこんな感じ。

 フォークについた粘着テープの残りカスを親指でベタベタ触って難しい顔をしていたら、ピロリーピロとレンジが鳴く。うっひょ〜良い匂い。アボカドとサーモンを乗せて、クリームチーズの濃厚な匂いにゴキゲンになる。誰もいないけど、いただきますと言ってアボカドから食べる。とろんとしてて超おいし〜! 選んだアタシも、作った人も天才。続けてモグモグしながら退屈な左手を携帯に伸ばす。適当にインスタを開いてぼんやり眺めて全然思ってないけど「いいね」を連発しておく。パスタおいしい。つまんない。おいしい、と楽しい、は常に同時にあるわけではないのだと気付く。仲良い友達といれば、まっずいゴハンでも超楽しく食べられるとか、そういうこと。今その逆をやっているアタシはとっても寂しいってわけ。なんだか腹が立ってきて爆速でパスタを掻き込むと、デザートの黒蜜きな粉プリンを開ける。店員さん、小さなスプーンは付けてくれていた。んー、おいしそう! 寂しー。
「ぶぇっくし!」
匂いを嗅いだ際にきな粉の細かいやつが鼻をくすぐって、思い切りくしゃみをしてしまった。時速約320kmでアタシのくしゃみがきな粉にぶち当たり、テーブルに舞い落ちる。やってしまった。いや、こんなんめちゃくちゃ面白い。めちゃくちゃ笑い話にしたい。できない。笑い話をするためには相手が必要なのだ。全く笑えない。当事者しかいない今、現場は大惨事だ。「たすけてー……」と虚空に小さく呟きながら、ウェットティッシュを使って無心できな粉を集める。何やってんだアタシ。

 プリンはおいしい。きな粉は減っちゃったけど、黒蜜とプリンの組み合わせがまた絶妙なんだな。なのにこの虚しさは何。この流れでもうわかってるけど、アタシって孤独なんだ! 話し相手が欲しい。おいしいこととか、嬉しいこととか、失敗しちゃったこととか、いろんなこと全部共有して楽しくなりたいんだ。無機質に並べられる「いいね」とかじゃなくて、誰かの言葉がききたい。アタシの言葉をきいた、アタシの行動を見た、誰かの言葉をききたい。アタシって孤独なんだ。そんなつもりなかったけど、やっぱり、認めたくないけど、この寂しさや、満たされなさは、孤独のせいだ。

 友達、つくろ。そういえばさっきのあの店員さん、なんて言いかけたんだろう。明日靴を買ったら、またあのコンビニに寄ってみようかな。

【差引残高 2,486,074】




◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
ぱやちの関連リンク集 https://potofu.me/241638

 

 

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