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『マイスウィートスウィートエンジェル!』第4話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説


 靴を買おうと思って、インターネットで延々と調べ続けていたけどいまいちビビッとこない。可愛いーと思っても、もしかしたら足に合わないかもとか、実物はそんなでもないかもとか、いちいち後ろ向きな考えが浮かんで購入まで進めない。やっぱお店に行くしかないかー面倒だけど。適当に化粧をして、あの痛い靴を履いて街に出る。靴屋さんに行くのなんていつぶりだろう。あまり行かないお店に入るのは、なんだか緊張する。何かお探しですか、なんて話しかけられるともっと緊張するからやめてほしい。何を探してんのかなんて自分でも分かんないし。必死で話しかけるなオーラを放ちながらざっと店内を見回す。は、と白とピンクでデザインされたスニーカーに目が留まる。わ、超可愛いじゃん! 色も白がメインだから合わせやすそうだし、何より形がめちゃくちゃ好み。値段は……。
「25,000円かあ……」
思わず声に出てしまう。ケチなアタシにとっては、なかなか大きな数字だ。でも、昨日コンビニで無心の買い物をしてから少しだけ気が大きくなっているような気がする。今のアタシなら、値段よりトキメキを気にしちゃえるってこと。

 スニーカーを買ってすぐに履き替えて、履いていた靴を駅のゴミ箱へぶち込んだら気分がスッとした。新しいスニーカーの白がおひさまに反射してキラキラしてる。少しずつ覗く淡いピンク色が本当に可愛い。あまりにも可愛いもんだから、急に思い立って髪の毛もピンクに染めた。バッサバサの金髪が、ほとんど無敵級に可愛くなった。美容師さんには、「お仕事お休みですか〜」なんて聞かれたけれど、適当に「そうなんです〜」とか言って誤魔化しておいた。本当は無限連休編に突入しているだなんて、相手も別に聞きたくないだろうし、アタシも話したくないから、ピンクの薬剤が塗りたくられていく頭を黙って見つめていた。薬剤の刺激で頭皮がピリピリして、むず痒い。出してもらったレモンティーを啜りながら足下を見つめる。やっぱり可愛い。可愛い。可愛い! 足にピッタリで見た目も可愛いって、最高。気に入ったものを後先何も考えず買えるだけでこんな気持ちになれるんだ。長生きなんて考えるもんじゃないなーなんて、不謹慎にも思っちゃう。薬剤を洗い流して、丁寧に乾かしてもらうと、ふんわりとした優しいピンク色に染まった髪が揺れた。可愛い。可愛い。可愛い! テンション爆上がり。爆上がりってか、春みたいにふわふわ幸せな気持ちが身体の周りを取り囲む感じ。可愛いに包まれて、美容師さんにお礼を言う語調もいつもよりふんわりした感じになる。なんだか何かの主人公になった気分。ウキウキするから、このまま帰りたくなくて、ケーキ屋さんでシュークリームを買っちゃう。公園で食べちゃう。油でギトギトのハトがおっさんのゲボを食べて喜んでいるところを見ても、今日のアタシは不機嫌になったりしないのだ。子どもたちにじっと見つめられながらできるだけ美味しそうにシュークリームを頬張る。どうだ、羨ましいだろう。本当にシュークリームは美味しい。このケーキ屋さんのシュークリームは、皮の部分がまさしくキャベツみたいにゴツゴツしていて、でっかくて、カリカリだ。おまけにクリームたっぷり。一つでもかなりのボリューム。口の周りについた粉砂糖をぺろりと舐めながら、アタシは更にゴキゲンになった。ウキウキがおさまらず、ついでに子どもたちに混ざってブランコを漕いで帰る。スニーカーだから、立ち漕ぎも余裕でビュンビュン高く漕げる。子どもたちがスゲ〜なんて全然すごくないことを褒めてくれるので、これって本当はすごいことなのかも、と嬉しくなった。アタシ、ブランコが得意なんだな。知らなかった。
「お姉ちゃん、どうして髪の毛がピンク色なの?」
男の子が無邪気に尋ねる。空は薄紅色に暮れ始めてきた。
「そりゃ、とびきりゴキゲンだからよ!」
アタシだって、負けずと無邪気だ。

【差引残高 2,426,074】




◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
ぱやちの関連リンク集 https://potofu.me/241638

 

 

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