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『マイスウィートスウィートエンジェル!』第14話

岡山のツイッター文豪ぱやちの ハイパーただの小説


 シンちゃんの部屋には一度だけお邪魔したことがある。シンちゃんは嫌がっていたけど、アタシがどうしても、とワガママを言うと、しぶしぶオーケーしてくれた。
 どうしてそんなに嫌がるんだろう、と不思議だったけど、部屋に入るとその意味が何となく分かった。シンちゃんの部屋は、すっごくすっごく、可愛かった。
 赤と白のストライプのカーテン、桃色のおふとん、部屋いっぱいの魔法少女グッズ。アタシのによく似た、ピンク色のギター。どこをどう見ても女の子のお部屋。真っ黒な服ばかり着ているシンちゃんからは、想像もつかないだろう。

 だけど、アタシにはしっくりきた。シンちゃんとたくさん遊んでいると、シンちゃんが女の子に憧れていることくらい想像がつく。だから少しも驚かなかった。でも、「女の子に憧れている」というのはやっぱり少し違う。シンちゃんは、シンちゃん自身の思い描く「可愛い」に憧れているだけなんだ。それは、女の子とか、男の子とか、関係ない。だからシンちゃんは、アタシがはじめて「女の子みたい」と言った時に、悲しそうに笑ったんだと思う。シンちゃんの「可愛い」は、シンちゃんのものなんだ。

「シンちゃんの部屋ってかんじ。超可愛い!」
とアタシが言うと、
「よかった」
と、ほっとしたように微笑んでくれて、アタシの考えが間違っていなかったことを確信する。
 シンちゃんの大事にしているときめきが、アタシも好き。

 やっぱりシンちゃんにピアスを開けてやりたい、と思う。シンちゃんの独りよがりな「可愛い」が、アタシには少し寂しい。アタシの「可愛い」をそこに混ぜてほしい。
 さすがに勝手にピアスを開けるわけにはいかないから、シンちゃんが眠っている間にこっそりサクランボの小さなシールを貼った。アタシのピアスホールとは反対の、左耳。ホクロの上に被せるようにシールを貼った。シンちゃんは気づかないかもしれないけれど、それでいい。シンちゃんの大事な部分を抱きしめられたような気になって、高揚した。

 その日以降、シンちゃんから耳たぶシールの話をされたことはない。だけど知らない間にシンちゃんの左耳にはピアスホールができていて、赤い宝石みたいなピアスが輝いていた。アタシはそれが二人だけの秘密みたいで照れ臭くって、嬉しくって、もっと隣に並んでいたいなと、そう強く思ったんだ。

【差引残高 129,987】

 

◉ぱやちの
ミスiD2020文芸賞、たなか賞、「ミスiD2020」受賞。
https://miss-id.jp/nominee/9740
ぱやちの関連リンク集 https://potofu.me/241638

 

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